嵐を呼ぶコンサート

   今ソリスツユーロピアンズルクセンブルクが絶好調です。
 
   体制を一新して音楽関係者を唸らせた2010年/2011年のシーズンの締めくくりの7月10日に、毎年恒例のヴィルツ野外コンサートがありました。
 
   今回は、ソリストにモデルでもあるヴァイオリニスト、デイヴィッド・ギャレットを迎えてのメンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲。3月の段階で1000余席の会場は完売御礼が出ました。お客さんの80%は、彼の熱狂的ファンの万遍ない年齢層の女性。ステージに登場しただけで黄色い声が上がります。ルクセンブルクの北に位置するちっぽけな町の会場には、遠路はるばる来たファンが2時間前から集結し、明らかにいつものクラッシックコンサートとは違います。対するオーケストラのみの演奏曲は、オッフェンバッハ作曲ローゼンタール編曲による「パリの喜び」。どうして我々の音楽監督クリストフ・ケーニッヒはこんな選曲をしたのでしょう?今日はギャレットのためのコンサートかな、と我々の誰もが思っていました。
 
   コンサート前半の、モデルでもあるスター・ギャレットの演奏に対して、嵐のような拍手とブラボー。ヨーロッパ中からコンサートマスターばかりを集めたルクセンブルクの弦楽器軍団が、なんとコメントしていたか・・・、まあ、そういう事はこの際いいではありませんか。彼の”売り”は他の部分にもありますので・・・。お客さんを狂喜させる力を持っているのですから、全く文句のつけようがありません。休憩中にオーケストラのプレジデントと立ち話をしていると、熟年の淑女が、「ギャレットを間近で見るために最前列を取ったのに、太っちょのコントラバス弾き(首席奏者で日本でも大変有名なギュットラー)のお尻しか見えなかったわ。よくもあんな席を私に売ったわね。お金返して頂戴。」と苦情を言いに来ました。後半客席に目をやると、確かに最前列でありながら端っこから2番目の席にお掛けです。彼にはこのような熱狂的ファンがついてるんですねえ。
 
   さて、後半です。「パリの喜び」は今日フランス以外ではあまり演奏されなくなってしまった・・・、そう言って過言ではないでしょう。フランス人以外は誰も演奏したことが無いことが練習でも明らかで、とてもやりにくかったです。私のすぐ後ろに座しているファゴットの巨匠、チェコフィルのヘルマンに、「チェコフィルに30年いたのに初めて?」とふざけて聞きましたら、「コラ若いの、40年だぞ!」という具合です。
 
   ところが演奏が始まってみると・・・、既に1曲目でお客さん大喜び。ルクセンブルクは歴史的にドイツに背を向けフランス寄りだからでしょうか?曲が進むにつれ、ケーニッヒの選曲の読みが見事に的中し、拍手が益々大きくなります。こうなると彼もコンサート本番の男、オーケストラもヨーロッパ中の名手の集まりですから本番の集中力が桁違いです。尻上がりに想定を遥か上回った演奏になりました。実は演奏しながらも結構恐ろしかったです。ズンズン迫り、ガシガシ進み、音楽の奔流に流されそうになりながら必死でした。ジェットコースターに乗っている様でもありました。これは凄い。クライマックスの「天国と地獄」では、そういう曲ではないのに演奏しながら不覚にも涙が出てきます。生きてて良かった、音楽やってて良かった、そういう時間。ほとんど万雷の嵐状態の拍手。演奏が素晴らしくて演奏者とお客さんが完全に一体となったコンサートでした。フルトヴェングラー体験者は彼のコンサートについてこのような表現で語ることが多かったですが、こういうことだったのかもしれません。とにかくギャレットのためのコンサートになっていたかもしれないどころか、完全に我々がギャレットファンのハートを摑んでいました。
 
   そしてあまりのド迫力と拍手喝采の興奮状態の後、ギャレットが再び登場してアンコールを演奏する際・・・彼はふざけてもう楽器をケースに仕舞い込み肩から掛けて、あたかももう帰ろうとしていたかのような格好で登場しましたが、ステージでまず楽器を出す間、会場が一旦静かになった時に、皆初めて気が付きました。滝のような大雨と激しい雷鳴の本物の嵐・・・涙雨でしょうか?ヴィルツは小さな町ですが、第2次大戦中占領していたナチに対する大規模なゼネストが起き、多くの人が銃殺された、ルクセンブルク人にとっては特別な思いの町です。命をかけて蜂起したルクセンブルク人が天国で喜んでくれたのかも。幸いステージ、客席とも屋根がついていますので、雨に濡れることなくアンコールが3曲演奏されました。
 
   とにかくこの男、クリストフ・ケーニッヒは嵐を呼ぶ指揮者。「パリの喜び」を極上の芸術にしてしまうなんて。
 
   そして私渡辺克也も、嵐を呼ぶオーボエ奏者であります。あまりのド迫力でコンサート中に嵐になることが多く、昨年6月ののカザルスホールリサイタルでは、ホールの中まで聞こえるほどの激しい嵐。御茶ノ水駅までの坂道が濁流と化し、お客様が帰るに帰れなかったとか。このたび新しくCD「サマーソング」をリリースしました記念のコンサートが、7月23日19時東京文化会館小ホール、8月31日19時川口リリア音楽ホールでございます。感動お約束します。CDのほうもドイツで製作され、日本国内盤も含め世界中のお店で入手可能です。嵐を呼ぶコンサートとCD,皆様どうぞご期待ください。
 
 P.S.  7月15日朝日新聞、読売新聞両夕刊でこのCDが推薦されました。