ドイツで一番美味しい白ソーセージ

   白ソーセージと言えばバイエルンの名物です。でも、今回の話題は、バイエルンの白ソーセージではないんです。
 
 チェコと国境を接するドイツ・テューリンゲン州、ここには、伝統的にクリスマス・イヴと正月に食される、しかしながら1年中入手可能の、シュレージエン白ソーセージというのがあります。テューリンゲン州以外では、その存在をあまり知られていません。シュレージエンというのは、戦前はドイツ領だった、現在ポーランドチェコ国境沿いに位置する地方です。第2次大戦終戦前後にシュレージエンから追われたドイツ人が、その伝統をテューリンゲン州で温め続けている、ということなのでしょうか?世の中で有名なのは勿論バイエルン白ソーセージですが、味の方はシュレージエンの方がずっと上です。これを聞いたらバイエルン人は烈火の如く怒り狂うだろうと思うのですが、本当なんですよ。
 
 テューリンゲン州のルドルシュタットという小さな町のオーケストラに呼ばれて、行きました。ここには以前も呼ばれたことがあり、こんな奥深い田舎のオーケストラにもまさかの日本人首席ファゴット奏者が活躍していて、驚きました。彼の名は正岡健太郎君。木管楽器群の揺るぎない要として、実に見事な仕事ぶりをし、オーケストラ団員から一目置かれる存在でした。
 
 彼は2年ほど前に出世して、別のオーケストラに移りました。彼の後釜はかわいそうに、団員は正岡君と同じクオリティーを期待しますが、そんな立派な働きをしてくれる新人などいる訳がなく、あっという間に試用期間で落とされてしまいました。そんな訳で、正岡君がいた頃に比べると、今は演奏にしまりがなくなっています。まだ探していますが、彼の後釜はそう簡単には見つからないでしょう。そのくらいオーケストラにとって大切な奏者だったのです。
 
 正岡君がいた頃に、「この街で何か美味いものは?」と聞きましたら、テューリンゲンソーセージだと言うのです。直径3センチくらいの太くて長い、ドイツ中どこでも入手可能なありふれた焼きソーセージです。「いくら本場テューリンゲンに来たからって、焼きソーセージなんて…、あんなモンに美味いも不味いも無いでしょう。」と言いましたら、「ところがここのは違うんです。生のソーセージから焼きますからね。ドイツのどこへ行っても、ここのくらい美味いのはありません。ためしに市役所前広場の屋台で焼いてるのを、食べてみてください」。
 
 食べてみてびっくり。工場で火を通した状態のソーセージを仕入れてきてグリルで焼き色を付けているのではなく、本当に生肉のソーセージを焼いていました。それに、ここのソーセージは、余った肉の端切れを仕方なくまとめて処分したシロモノなどではなく、肉汁の旨味を皮の中に閉じ込めたまま焼くという、立派な肉料理になっているのです。
 
 「渡辺さ~ん、言ったでしょう?ここら辺は肉の国チェコと国境を接してますからね、肉の扱いも上手いんです。まだ次があるんですよ。今度は、シュレージエン白ソーセージといって、これも生のを売ってます。バイエルンのは火が通された状態のしか売られてませんからね。ここが大きな違いなんです」。
 
 教えられたビュッヒナーという肉屋に即座に走り、二本仕入ました。旅行用バックにいつも入れてある湯沸しでお湯を沸かし、生の白ソーセージを浸して、少ししたら念のためもう一度沸かしたてのお湯に換えて、合計10分。皮を指で獰猛に剥がし、一気に喰らいつきます。
 
 ああ、何という事でしょう、旨い!プリンプリンの食感に濃厚な肉の味、ほのかにレモン汁の隠し味が効いて…。
 
 という訳で、この街に来ると毎日1食はシュレージエン白ソーセージを食べます。
 
 肉屋では、こんな感じで売っています。手前がシュレージエン白ソーセージ、奥がテューリンゲンソーセージの細挽き、で右手前が粗挽きのテューリンゲンソーセージ、ここまでは全て生ですね。右奥はご存知ウインナーソーセージ、これは既に火が通ってます。
 
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   シュレージエン白ソーセージをホテルの部屋で温めているところです。茹でるのではなく沸騰した湯に浸し、火が今まさに通った時点で上げるのがコツです。
 
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   正式でお上品な食べ方もありますが、やはりこうやって手掴みでむしゃむしゃ食べるのが一番でしょう。
 
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   こちらがそのお店です。万が一にもルドルシュタットにおいでの際は、お試しください。湯沸しをお忘れなく。
 
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   ブログに登場してもらってもいいか、正岡君本人に確認しましたところ、OKのお返事と共にこのようなコメントが寄せられました。フランケンというのは、彼が現在住んでいる地方の名前で、実は割とグルメで有名な地域です。
 
   「テューリンゲンのソーセージはやはり美味しいですね。フランケンに来て、失望の日々です。同じ『山奥』の街なのですが、何やらこちらの肉製品の塩加減が濃いのです。」
 
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