真に安らぎの時間

  正味12日間の日本滞在が迫ってきました。http://www.katsuyawatanabe.com/jp/schedule.html 4月19日にソリスツユーロピアンズ・ルクセンブルクのコンサートがあり、翌朝気合の5時15分発一番列車でフランクフルトに向かい、日本に飛びます。
 
 私は、日本酒党です。滅多に頂きませんが、いったん始めると結構いけるクチです。キリッと冷えた日本酒の繊細な味わいと、ポワーンと心地よく回る酔いが何とも言えず、日本での楽しみの一つです。ビールはそれに比べると味も酔いも攻撃的な様な気がして、私のポリシーに合致しません。日本で皆さんとビールで乾杯するときも、日本にいる間しか飲めないからという口実で我儘を聞いてもらい、私一人だけ日本酒で乾杯させて頂きます。ただし楽器を演奏する前は絶対に飲みません。
 
 ヨーロッパ発日本行きフライトの機内では、当地で積み込むョーロッパ産の和食には一杯食わされることが多いので、必ず洋食を頂きます。逆に日本発の場合は、必ず和食をお願いすることにしています。ビーフストロガノフが出ても、鳥のフリカッセが登場しても、合わせるお酒は、日本酒です。(エールフランスの場合は例外で、必ず赤ワイン)隣にお掛けの熟年日本人夫婦に「お若いのに日本酒がお好きなんて、珍しいわね。」なんて言われたりします。
 
 でもって、お食事と日本酒を頂きながら映画を見ることになりますが、もちろん久しぶりの日本映画にチャンネルを合わせます。
 
 オーボエの練習をしたくても物理的に不可能な・・・真に安らぎの時間です。刃物を持ち込めないのでリードも削れないし。
 
 ヨーロッパを発つ機上ではベルリン自宅での猛練習で、また日本を発つ時は日本でコンサートが無事に終わった後で、いずれも疲れ果ててボロボロになっています。ヨーロッパにどっぷりと浸かった生活の後に何ヶ月ぶりかで頂く日本酒の美味しさは筆舌に尽くし難く、瞬く間に3本目、どんどん酔いが回ります。またウェットなお涙頂戴の日本映画が、合理的でドライなヨーロッパ的思考を忘却の彼方へと追いやり、突如故郷日本の情を私の心の奥深くから呼び覚まします。日本からベルリンに帰る時は最期の日本酒と日本映画になりますので、それこそ必死で味わいます。(日本で頂いた高級日本酒を荷物に詰めきれず、成田空港までの京成の中で頂いたこともありました。)斯くの様にしてヨレヨレのあんちゃんが、飲み食いしながら酔っ払って映画を見て我を忘れてボロ泣き(さすがに声は出しませんが)しているという、目も当てられない光景が出来上がります。コンサートで鍛え上げた集中力が威力を発揮して、この際こういうことにも没入できるのです。
 
 機内で出される小瓶のワインや日本酒は、プラスチックのペコペコカップに注ぐと途端に不味くなり、瓶からそのまま口飲みするのが正しい飲み方だと信じて疑わず実行いたしますので、ますます怪しいです。
 
 自慢にもなりませんが、シュチュワーデスさんに「大丈夫ですかー?」と声を掛けられたこともあります。
 
 お隣の熟年日本人夫婦に「これから3日後に、サントリーホールでオーケストラとオーボエ協奏曲を共演します。よろしかったらおいでください。」などと言っても、まず信じてもらえないでしょう。